いつか、桜の下で…
「陽菜、忘れ物よ?」
玄関を出ようとしたら、お母さんに呼び止められた。
「これ、お友達に返すって言ってたじゃない」
お母さんが持っているのは、久美に貸して貰っていた社会のノート。
「あ…」
思わず零れた気のない返事にお母さんは、口を隠して笑う。
「全く、おっちょこちょいなんだからっ」
今日、コップを二つも割ったお母さんには、言われたくないんだけどな…。
そう思いつつも、私はノートをスクバの中に入れる。
「後、忘れ物はない?」
ドアノブに手をかけると、お母さんが念を押す。
「んー…、ないよ」
「そう。じゃあ、気をつけてね?」
「はーいっ」
私は、家を出て少し、立ち止まった。
「…忘れ物、か…」