いつか、桜の下で…




「私は、出来るならばここにいたいと思います」



香織は、言葉を続ける。




「けれど、新撰組のために私が邪魔であるのなら、立ち去る気でいます」




全て、お見通しだということか。



「どうするよ、近藤さん」



俺がそう聞くと近藤さんは、微笑んだ。



「女人がいるのは新撰組の規律に反する」



香織の顔に眉間が寄る。



「だが、君は新撰組が出来るより前に俺達と共に戦ってきたことも事実」




「近藤勇として、俺は君を救護班、及び隊長の補欠として新撰組に残す!」




「…え」




気の抜けた香織の声が聴こえた。




しばらくして、平助の叫び声が部屋中にこだまする。




「うっせぇーぞ、平助ー!」



平助をはやしたてる永倉の声も部屋中をこだまし、それに続いて原田もまた騒ぎ始めた。




「ったく…うるせぇやつらだな、女が残ってんなに嬉しいのか」




…そう言った俺も、香織が残って嬉しくないわけじゃなかった。



ただ、土方歳三だった俺は、誰よりも感情を面に出すのが苦手だった。




だから、素直に喜ぶことが出来ないでいた―…。





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