魔王に捧げる物語
柔らかい風に支えられて、ふわりと着地する。
光は届かないほどに深い地の底のはずなのに、視界に困らず、金と緑に輝く遺跡のような場所にいた。
キョロキョロとしていると、どこからか声が聞こえた。
『欲深い人間、これは珍客』
耳鳴りと頭痛が急に酷くなる。
『失礼、人間には辛かろう』
「っ誰だ!!」
青年が警戒しながら叫ぶ、
『名や姿が必要か?ならばこれでよい』
目の前に現れたのは、鏡に映したように同じ自分の姿、違うのは金緑の瞳と何対もある漆黒の翼。
!!!?
言葉も出てこない。
翼を持った男が歪んだ笑みを浮かべた。
『お前の姿を借りた、この身は役目を終えかけているのでな』
「………何者だ」
『本性は鳥、雷を纏う鳥。災禍を封じ、世界とこの地に縛られた憐れな魔王とでも言おうか』
災禍………。
封じ込められてなどいないではないか。
魔王だかは知らないが、災禍はその手から離れている。