魔王に捧げる物語
もう時間がない。

何か、何かないのか。




『……方法はある、勝算の少ない賭けだがな』


ハッと青年が顔を上げ魔王を見つめた。
自分と同じだが、まったく違う顔が悪戯に笑む。


『お前が罪と罰という鎖を背負い、人柱として縛られながら魔王になればいい』


どうだ?


と、毒のように甘く囁かれた。


闇に堕ちるような誘いだが、迷う暇も無かった。


愛する人々、これから産まれる者達の為に世界を守りたい、これが自分の正義だから。


「わかった…」


『安いものだ。お前は試されていた事にも気付かずにこの地に入り、全てを失う。命さえも……』


「元々、生きて帰れるとは思ってない」


青年の言葉に魔王が獣のような声で大きく笑う、


『若いな、下らん正義に命を賭けるとは……。浅はかな決断に後悔する頃は、重責と苛む力に狂う時……。

もう、如何なる者もお前を救えない。

最期に見るには過ぎた余興だ、せいぜい地獄を味わうことだな』





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