魔王に捧げる物語
「ある若い男は、荒れた世界の再構の為に国を出た。
目指した先は北の果て、禁断の地。
彼は、黙って死を待つ種の人間ではなく、最善を尽くそうとしたんだ」
まるで小さな子供に語るかのように穏やかで、興味を惹くものだ。
ミラは続きを促すようにじっと見つめる、
「温い風、渇いた大地は大きな戦の爪痕。
人々や獣、竜の愚かさが招いた取り返しのつかないもので、
厄災と光の射さなくなった夜を合わせ、災禍の夜と呼ばれた」
「ずっと暗いの……?」
不安そうな顔をしたミラをニルが優しく撫で、そう、と肯定する。
「………男は、古びた伝承にすがってその地に赴き、禁断の地に踏み入れた。
ずっと以前から魔力はあったけど、その地を満たす魔力はそう想像を絶するもので、
満天の夜空に輝く星か、水のように流れる虹が森の中に見えた」
暗い世界から見るそれは、どれほどの明るさだった?
ぼんやりとしか想像出来ないが、とても綺麗で神秘的なのだろうとミラは思う。