魔王に捧げる物語
「男は、帰れないとわかっていたんだ。
振り返った先に道がなかったから」
「………っ!」
ハッと息を飲むと、不思議に輝く瞳が少しだけ細められる。
「それでも、彼は進んだよ。
導かれるように、その場所へ。
満開に咲き誇る花と、大穴のあいた………世界の果てに」
世界の果て………。
想像も難しい景色だ。
ミラは余りに世界を知らない。
知りたくもあるが、少し怖かった。
たった一人で赴く覚悟はどれほどのものだろう……。
「大穴に降りると、暗いはずなのに明るかった。
そこには“魔王”がいたから」
「魔王?ニルがいるのに………??」
思わず言うと、ニルがクスクスと笑った。
「お聞き、これは俺の見た“夢”であり、彼の見た“現実”だ…………わかる?」
わからない。
物語のような夢はわかる、でも何か変だ……。
それだけははっきりとわかる。