魔王に捧げる物語
Ⅸ
嵐が訪れたのは、その数日後だった。
ミラがイシュと一緒に城内を散歩して、いろんな物を見せてもらっていた時にそれは何の予告もなく現れた。
「魔王様ぁ~??」
エントランスから女の高く甘ったるい大声が聞こえる。
イシュは驚き過ぎて花瓶を落すし、ミラはミラでキュッと彼の細い肩を掴む。
「私です!!お会いしたくて抜け出して参りましたの~~!!」
私だと言われても………。
ミラとイシュは思わずお互いを見つめ、きっと同じ事を考えた。
誰っ??????
女の声が段々と近づく、
「魔王様?私を試していらっしゃるのですか~??」
そっちの世界の女性だろうか??
ミラは恐る恐る声のする方を柱の陰から見つめた。
そこからはフワフワと揺れる金糸の長い髪と、水色のドレスが見える。
女はミラに気づく様子なくまた叫んだ。
「愛の力で見つけてみせますっ!!」
……………。
鼻息荒げている姿が想像出来たが、微妙な気分になる。
こういう気分が萎える、というものなのかもしれない………。