魔王に捧げる物語
目を開くと、広い部屋にいた。
無表情のイリスがスッと立ち上がり自分達に頭を下げる。
「おはようございます」
ドキリとするが返さないわけにもいかない。
「おはようございます……」
顔を上げたイリスが目を見開き、それから一度閉じた。
「魔王様……お加減がよろしいようで何よりです。
少し外していただいてもよろしいですか?」
「………いいよ」
二人になるのを不安に感じニルを見ると、少し頷き消えてしまった。
途端に訪れた沈黙にどうすればいいのかわからず立ち尽くしていると、イリスが近付いてきた。
「………昨日は言い過ぎました」
「え………?」
出てくるとは思わない言葉に、咄嗟に反応できない。
「悪あがきをして、あなたを傷つけたわ……。
本当は昔からわかっていたの、叶わない恋だと」
「あの……」
思いのほか穏やかな表情に更に戸惑うが、イリスはそのまま言った。
「あの方が宮殿に訪れるのは父上に会いに来ていたからで、私は数に入っていなかった………。
友人の娘程度でしょうね」