魔王に捧げる物語
「さよならイリス………」
彼女が出ていく姿を見つめながらミラは呟いた。
最初は強烈な人で、嫌悪感を隠せなかったが、彼女は彼女なりに事情があったとわかってからは少し変わった。
複雑な気持ちを態度を以て教えてくれて、わからなかったことがたくさんわかった。
ニルにも素の自分を見せられたのは彼女のお陰だ。
ミラはありがとう、と何度も心の中で呟いた…………。
「帰るの?」
ニルはイリスの前に立った。
大体の会話の内容はわかっていた、
だからこそ呼び止める。
「はい………」
「他国でも元気でやるんだよ………?」
「はい、ニル様」
「…………」
イリスはどこか吹っ切れた様子で笑った。
「あなたをお慕いしておりました。
でも私の運命ではなかった………」
「そう、だね」
ゆっくりと彼女が横を過ぎていく。
小さかった彼女も大人になり、もうだっこを求めたりしなくなった。
泣きじゃくることもわがままも………。
関わった人間はそう多くない、でも皆……自分の世界を見つけていった。