魔王に捧げる物語
「そうだよ。ここだけじゃなくて、世界中見てきた。
人間も動物もいろいろね……」
「ニルはこの世界が好き?」
「今はね……。昔は嫌いだった」
ああ、カインが言った通りだ。
ミラは聞いてから少し後悔した。
外をほとんど知らなかった自分は、初めて見る景色に様々な感動をする。
しかし彼にとっては違った。
少し悲しくなる。
「人が見る世界とは大きく違うし、膨大な知識や力に苛まれた。
欲望は尽きず、戦は絶えない。繁栄と衰退を繰り返し、滅びを迎えるまでこのまま……。
いくら力を尽くしても叶わないことを悟って、滅びてしまえばいいって思ってた」
「……………」
「でも……出来なかった。ミラと会ったから。
笑顔が離れなくて、この子の笑う世界が愛しくて仕方なかった……」
「ニル……」
「意識が変わった瞬間から守ろうと思ったよ。
俺を無条件に飾ってくれる世界をね。
ミラは世界が好き?」
「好きよ、こんなにきれいで、たくさんのものがあるから!」
ニルの言葉に悲しい気持ちがどこかに飛んで行く。