魔王に捧げる物語
夢の中は知らない場所だった。
見渡す限りの白い雪と氷、草木が全て眠っているかのような静寂。
生き物さえ見当たらない。
見上げた空は燃えるように赤い、夕焼けとは違う。
それだけはわかった。
一人その景色を見て、言い知れない不安に襲われた。
空は赤いのに雪だけがやたらと白い。
深々と雪が降る、音もなかった。
不安を感じながらも進むと、神殿のような建物が見えてくる。
あちこち凍りついているものの、圧倒的な存在感を発していた。
下に視線を向けると、この雪景色に似合わない格好をした女性が神殿を見上げていた。
雪に溶けてしまいそうな純白のドレスを纏い、腕や背中が露出する。
見ているだけで寒いと思っていると、女性は振り返った。
息を飲む美貌と薄い金の髪と瞳がこちらを見つめる。
正確には自分ではなかった。