魔王に捧げる物語
ミラの真横を男が通って行った。
その男を見て瞬きを忘れ、呼吸も忘れる、
エリュオン皇子。
その人がまっすぐに神殿へ向かって行くのだ。
以前会った時と少しも変わらない強い印象のまま。
疑問しか浮かばない。
彼が………このような場所に何の用があるのか見当もつかない。
宮殿で胡座をかいてそうな人だと、ミラは少なくとも思っている。
女性は無表情に彼を見つめゆっくりと口を開いた。
「カルナバルがこの地に何用か?」
その声は………重なるような不思議な声だった。
エリュオンは挑戦的に笑む。
「貴様に関係はない、失せろ亡霊」
「愚かな者、この地がなんたるかを知らぬ事はあるまい」
「知ってなければ訪れない。過去の遺物が眠る場所だ」
「尚の事、立ち去るがいい。人の領分ではないものよ」
目にも留まらぬ速さで抜かれた剣が、女性の喉元に突き付けられる。