魔王に捧げる物語
「じゃあついておいで、
お前を柱に構築するよ」
ニルは彼の見る視界を一変させた。
それは自分が見る世界であり、人を外れた景色。
世界が逆さまになり、下が空で上に足がつく。
ほどけた鎖があちこちに落ち、氷の砂利道と無の地。
イオは足が動かないかのように立ち尽くす………。
「これが北の果て、雪と氷に支配される世界。
ほら、早く来るといい……狂気に飲まれるよ」
「北の果て………狂気?」
「奴らは世界を喰らい尽くしたいらしいから」
スッとニルが指した先から異形が迫る。
もの凄い速さでこちらに来た。
硬直するイオにニルは無言で背後をとる。
「走るんだよ?
お前が中枢に着くまで俺が止めてあげるから」
「し、しかし………!」
大きく恐ろしいそれを何とも思わないというように、魔王としたニルが緩やかに指先を動かす。
「俺が何か……わかるよね?」
わからんっ!
ちょっと魔力に恵まれた程度の普通の人間に、魔王の力の程など想像も及ばない。