魔王に捧げる物語
ざわざわとはためく翼、纏う雰囲気がガラリと変わる。
ビリビリとした激しい魔力の光、雷………というのが確かに近いものかもしれない……。
ニルがゆっくりと瞬いた瞬間に凄まじい雷が落ち、異形の動きが止まる。
大きな体躯に突き刺さりながら落ちていく雷に呼吸を忘れた。
「早く行くといい………間違って殺すかもしれない」
女の悲鳴と野太い声が重なったような聞き苦しい音が響く。
足が………飲み込まれたかのように動かなくなっていたのに、急に軽くなった。
「何を………っ!?」
「軽く落としただけ、こんなものじゃくたばらないよ………、
本気になりすぎたら空間自体を壊してしまうし、世界を壊滅させちゃうし」
行け、というように視線を送られ、仕方なく進む事にするが………。
ひっくり返りそうな光景を魔王は顔色一つ変えずに見ていた。
狂気……?
魔王のほうが余程不気味だ…。
感情のこもらない瞳がただ異形を見据え、これといった反応も見せずに激しい攻撃が行われている。