魔王に捧げる物語
これ以上見ていたら本当に動けなくなる、そう思いイオは振り返る事なく走り出した。
ニルは視界の端に捉えながら笑んだ。
「おいでよ………アルトネア。
お前の力を見せてごらん?
魔王は眼前にあるぞ」
氷柱のような牙が自分に向かって襲いかかろうとも、恐怖など感じない。
むしろ………、
愉しい気分だ。
簡単に壊れない化け物相手なら、抑圧された力を大いに発散させられる。
ここは常なる世界ではないし、いくら力を出そうと………それほどの影響はない。
やられる可能性もあり得るからこそ、本気になれる。
簡単な事といえば、簡単。
そう、人の姿でなければならないわけでもない。
ミラには見せられないけれど…………。
漆黒の翼の羽がゾワリと蠢いて存在を主張した。