魔王に捧げる物語
しばらく歩いていくと、人が見えた。
ミラは腰の剣を握り、躊躇いなく抜く。
味方である可能性よりも、敵である可能性のほうが高いからだ。
それは雪に紛れながらも、ゆっくりとだが確実に近付いて来る。
やがてはっきりと見えた。
「…………エリュオン…皇子」
呟きが聞こえたかどうかは不明だが、確かに目が合った。
返り血のかかったコートが生々しく夢を思い出す………。
同時に、ニルと自分を引き離した元凶かと思うと憤りが沸いてきた。
「姫君っ!!!?」
呼ぶ声も無視して走り出す、
剣の使い方がわからなくても、刃先を彼に向け勢いに任せた。
が………、
刃が届きそうなところでなぎ払われる。
柔らかい雪に倒れ込んだ隙に、キラリと刃先が向けられた。
彼は驚きの表情を浮かべながら呟いた。
「貴様は……っ!」
と、
ミラに気をとられている瞬間にイシュが動き、小さな体に不釣り合いな長い剣を彼の首元に突きつけた。