魔王に捧げる物語
「それほどまで想われているのに……妻には迎えないのですか?」
ふと浮かんだ疑問を言うと、ニルは優しい笑みを浮かべた。
「そうだね………恋人と妻は違う。
もっと俺を見て、知ってもらってからのほうがいいと思ってたから。
大切に守りたい、ミラは今の俺の全てだよ」
彼女の話をする彼は本当に幸せそうで、一途な気持ちが伝わる。
自分は二人の姿を見られるかわからない。
それでも、儚げな彼女が幸せであるならいい。
命を救ってくれた事に………少しでも報いれるだろうか?
きっと笑顔が可愛くて、仕草も綺麗なんだろう。
少し惹かれてしまったのは内緒だ。
「そうですか………」
と、ぼんやり答えるしかなかった。
魔王が愛する人を想ってはいけない。
彼女を困らせてしまうし、何より魔王を怒らせてしまうだろう。
淡い心は人であった自分と一緒に捨てよう………。
ニルを前にイオは密かに思った。