魔王に捧げる物語
反転した世界は見たこともない景色を作り、感覚がおかしくなった。
それでも一歩ずつ確かに進み彼を目指す。
結晶のような雪は冷たくはない。
気温さえここにはない気がする、風も生き物も。
無なのか………。
果てならば、こんなにも色が少なく無なのか。
悲しい気持ちだった。
ひどい孤独感と駆り立てられる焦り。
自分が発する音しかないこんな世界は嫌だ。
早く。
早く、早く。
会いたい。
強く思ったとき、世界が変わった。
足元の空が青く、逆さまに降る雪。
光る結晶、覚えのある香り……。
そして、傷だらけな愛する人の姿が目の前にあった。
長い時間離れたわけではないのに、会いたくて仕方なかった姿。
視界が涙に歪み、唇は震える。
冷えきった体が熱くなった瞬間ミラは叫んだ。
「ニルっ!!!!」
何か言いたかったはずなのに、言葉が出てこない。
もしかしたら、言葉はいらないのかもしれない。
ピクリと反応した彼がゆっくりと振り返り、一瞬目を見開き、それから困惑したような顔になった。