魔王に捧げる物語
「ミラ…………」
いつもと同じ響きが懐かしくて仕方ない。
走りだした。
遠くはないが、早く飛び込みたかった。
逞しくなくてもいい、少し硬くても細くても。
その腕で抱き締めてほしい。
優しく撫でて欲しい。
抱えきれなくても、自分の手で抱き着きたい……。
飛び込んだ腕の中は百合の香りがした。
安心し、最も好きな匂い。
確かめるような手つきで背中が撫でられた。
汗もかいたし、汚れもした……。
化粧も綺麗な飾りもないけど、この手を失いたくない。
すがりつくようにくっついた体は、磁石みたいにピッタリとついた。
やっと会えた。
ようやく会えた……。
鼻水も涙も出てくる、
けど、どうでもいい。
好きなんだ。
だから、どんな姿だって隠さない。
ひどい顔でも、恥ずかしくなんてなかった。