魔王に捧げる物語
「ダメ、ダメだよっ!」
叫ぶように言い、力の限り抱き着くと優しい手が涙を拭う。
「仕方ないよ、ミラ。
覚悟は出来ていたからね、
俺は力を尽くしたよ」
お前が見たい世界を守ったよ………。
「ニルがいない世界なんていらないっ!
お願い………大丈夫だって言って!」
頬の手に自分の手を重ねて強く握った。
存在を確かめたくて、温度や質感を確かめたくて。
消えていない証拠がほしい。
「俺は幸せだよ。本当に、ミラと出会って側にいられて………。
過ぎた幸福だったんだ、この時間が」
片手がゆっくりと頭を撫で、髪に指が絡まる。
「………ミラがいたから俺はいたんだよ?
この世界以上に愛してる。
俺の全てだ」
心臓が止まるほどの言葉に瞬きも忘れた。
歓喜と反対の気持ちに揺れながら、自分も同じだった。
「わたしも、世界よりニルが好きよ。
愛してる。
だから……消えないで」