魔王に捧げる物語
自分からしたキスはきっと初めてだ……。
かさついた唇だけど、ニルの唇は冷たい。
温度を分けてあけだい。
戻ってきて、願いを込めたキスだった。
幻想的な景色のキスは強く心に刻まれ、忘れられないだろう。
「躯が消えても、俺という存在が塵になっても………
魔力が有る限り側にいるよ。
縛りつけているかもしれないけど………お願いしてもいい?」
「なに………?」
潤む瞳を必死に見開いて彼を見つめる。
焼き付けたい。
彼の顔を………。
大好きな声、匂い、仕草、色………全てを。
滑らかな唇が言葉を漏らす。
「俺の妻になって……妻でいて、
生涯じゃなくても、今だけは」
どうして…………?
当たり前だよ。
断る理由がない。
最高の言葉なのに、残酷だ。
こんなにも想っているのに、時間がないのか?
光がどんどん離れていく。
愛しい想いを告げきれていないというのに………。