魔王に捧げる物語
ぐにゃりと視界が急に歪み、内臓を捩られたような気持ち悪さに思わず強く目を瞑り、
イシュの小さい手にすがるように力を込めたのは一瞬の間だったのかもしれない。
目眩の様な感覚が消えた頃に恐々と目を開くと、
そう広くはない、どこかの一室だった。
「申し訳ありません、湖畔から城までは相当な距離があるので“飛び”ました」
気づかない内に口元に手を当てていたミラを心配そうにイシュが見つめる。
しかし、彼女が気をとられていたのは気持ちの悪さの方ではなかったようで、
“飛ぶ”と言う言葉に引っ掛かっていた。
何度も目の前で不思議な事が起きる、
周囲には先程までいた黒い集団はいない。目の前の少年と自分だけ。
魔女と言われていた自分だが、不思議な事が出来たためしはない………。
では、彼しかいないだろう。