魔王に捧げる物語
怖いほど冷たい瞳がミラを見下ろす。

彼の背にある翼は不規則にはためいて、しかし翼同士が触れ合っても音一つしない。


昼過ぎに部屋を出た時とは違うちゃんとした衣服、
以外にきっちり締めているネクタイは、柔らかい風があるにも関わらず少しも靡かない。


そんな様子を見ながら、



とりあえず、助かった………。



そう思ったのは甘かった、




ズルリと身体が下がったからだ。


「や、やだぁっ!!?」


必死に彼の腕を掴むが、震えてうまく力を込められない。


「………」


「ニ、ルっ!やめ、てっ」


彼の腕は今にも離れてしまいそうに、緩くなる。


「い、やぁ……」


「………怖い?」


青くなって震える彼女に余裕な声が届く、



「だったら、しがみ付けばいい」



あくまで支えるつもりはない、といった様子で再び落下し始めた。


「俺がこの場に居合わせなかったら死んでいたかもしれないと………よく覚えておけ」




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