魔王に捧げる物語
離さないで、


お願い………。


ただそれだけを願って、ギュッと力の限り抱きつく。

突き落としたのが彼だということを思い出すことも出来ないほど、ひたすらに怖かった。








「…………」


「………………」


「……もう地上だよ?」


「…………………?」



ゆっくりと目を開くと、彼の言った通りだった。


そして想像以上に近かった彼のお綺麗な顔に驚いたが、
さっきまでの恐怖と、以外にしっかり抱き上げられていることで動けなかった。



「外はミラが思うよりずっと危険だ、」


呟く声は相変わらず特に感情の籠らないものだ。


「少しこらしめてやろうと思っただけだけど………ごめん」


コツンと額が触れ合って見つめる魔性の瞳は、冷たさがいくらか和らいでいるように見える。





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