魔王に捧げる物語
堪えきれなかった涙がポロリとこぼれ落ちた。
怖かった、とても。
まだ少し震える手でしがみ付くようにくっつくと優しく頭を撫でられる。
「もうあんなに身を乗り出してはいけない、
………いいね?」
「……うん」
「じゃあ飛ぶよ、掴まって」
ギュッとくっつき目を閉じる。一瞬の浮遊感を感じた。
コツ、と大理石の床に足が付く音がする。
そのまま進んでいるらしく規則的な振動を感じた。
やがて目的地に着いたのか止まった、
どうしたのか目を開くと、月明かりしか入らない暗い寝室で、目の前には大きなベッドがある。
「もう休むといい、」
壊れものを扱うようにゆっくりとベッドに降ろされる。
ニルはそのまま膝をついて優しくミラを撫でて、黒い手袋越しの指でそっと涙を拭う。
「……」
「?」
なんて言っていいのか……、何度か口を動かしていると彼は首を傾げて待っていた。
「………今日はごめんなさい」
俯きながら言うと再び頭が撫でられ、
「いいよ」
と少しだけ笑んでくれた。