魔王に捧げる物語
「ゴーストだったらよかった?」
そう言うと、小さく首を振った。
柔らかい毛が手袋越しにも伝わり心地が良かった。
「そうじゃないけど……、」
細い眉が寂しそうに寄せられているのは、不謹慎だが可愛らしい。
だからなのか、
「では、これをあげる」
え?
と、見上げる少女の小さな胸にトン、と指先んかざして直ぐに離れていく。
不思議そうにぽかんとした少女の頭を軽く撫でて言った。
「おまじない……、お前の名は?」
「ミラ…」
ぽつりと呟くと、また見つめられた。
「俺は――……」
青年がゆっくりと立ち上がるのを見上げ続きを待つ、
「いつか……」
いびつな形の花冠をゆっくりと頭に乗せて、彼は少しだけ屈み少女を見つめ返し、優しく頭を撫でながら続けた。
「俺のそばにおいで……ミラ」
少女が驚きに瞬いた。
その瞬間に、青年の姿はどこにもなくなっていた。
ふわりと風が吹く草原で、少女はぽつりと独りごとのように呟いた。
「…あれ?……なにしてたんだろ?」
それは、何も覚えていないかのようだった。