魔王に捧げる物語
優しい手とは裏腹に、空間を支配する空気は凍えるほど冷たい。


あちこちに落ちる雷が、彼の怒気を表しているかのように激しく音を立て、

割れたガラスは風もないのに舞い上がり、 雷の光を拡散させた。


想像を絶する光景に震え上がる兵士達、流石のエリュオン皇子も冷や汗を流している。




そんな中、


「兄上っっ!!」

「城下が大混乱ですわっ!!」


乱入してきた金髪の二人が大慌てだったが、ニルを見た瞬間に硬直した。



「……魔…王?」


少年が空色の目のを見開きながら呟くと、ほの暗い空間の中で煌々と輝く金緑の瞳がゆるりと声の方を向いた。



「……………」



となりの少女はそれをしばらく見つめ、やがてパッと顔を輝かせた、


「まぁ!魔王様っ!貴方の妻になるイリスですっ、迎えに来てくださったのですか??」


「「………………」」


少女の場違いなほど明るい声が響き、威圧感を全く感じていないかのように歩きだす。



兄らしき二人は見事に呆然としてその姿を見つめた。




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