魔王に捧げる物語



………わかんないよ。



俯いたミラの手首をニルが労るように撫でて、静かな声が響いた。


「ミラ、小さな頃……覚えてる?」


コクり、と彼女が頷く。




「あの頃俺は、魔王である事に疲れ果ててた。
なんでも思い通りになるのは時に、何よりも苦痛だ………」





何て言えばいいのか言葉が見つからない。
ミラを見つめる瞳も、冷めたままで、



「全てを投げ出して………滅びてしまいたいと、願ってた………、」



幼かったあの日。

草原に寝転んでいた彼は確かに、ひどく具合が悪そうに見えた。


違ったとしても、幼い自分には大人の事情など理解できるはずもない。


ただ、何かしてあげたい、と思っただけ。


緩く撫でられながら言葉が続く……、


「もしも、あの日……あの時にあの場所で、ミラに会わなかったら………、

ここにいなかった」




とてもゆっくりと、しかしはっきりと言われた言葉に、心臓が跳ねたのがわかった。







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