魔王に捧げる物語
暫く一緒に進んだが、少年はピタリと足を止める。
振り返ると、少年が微笑んだ。
「ここでお別れだ、名も知らぬ友よ」
「………そうか」
友と呼べる程いろんな話をした覚えはないが、彼がそう思いたいのならそれでも良かった。
青年が少年に近付き、手を伸ばす。
「世話になった。こんな事がなければ、お互い関わらなかった種だろうし」
少年が大きく瞬き、手と青年を何度か往復したあと、ぎこちなく握り返した。
「君が国主であったなら、我々は和解に至ったかもしれない」
「ガラじゃないな」
「………そうだね」
紫水の瞳が陰る。
また会うことは叶わない事を、互いに理解していたからだ。
「先に行く……」
「待て、」
少年が手の甲から比較的きれいな鱗を剥がし、自身の額に翳す。
「何をも恐れぬ勇敢なる者、その魂に我ら竜の加護を」
眩しい程に輝くそれが、青年の額の上でスーッと消えた。
少年が柔らかく微笑んで、
「さらばだ」
と、歩きだしてしまった。
まじないの類いだろう……。
少しだけ、元気が出たような気がした。