魔王に捧げる物語



道無き道を進むにつれ、視界がどんどん変わっていく。

常はハッキリとは映らない魔力の流れが、手に取るようにわかり、極彩色に光り輝いている森。

遠目からは枯れた山にしか見えなかった。

奥に進む度に色付く景色が、外の荒廃を忘れさせる。

振り返った先に道はなく、戻る事を許さない証に見えた。




この山に入ってから食事も取っていないのに、体は空腹を伝えない。

冴えていく意識も不思議と言うより不気味だ。




やっと最奥なのか、拓けた場所に出た。

雨も降っていないのに水が光る草木、一面に咲き誇る真っ白な百合。


そして、底の見えない真っ暗な大穴が、飲み込むように口を広げている。


降りられるだろうか?


少し悩みながら穴を覗くと、
何かに呼ばれているような気がした。



黙っていても死は逃れられない。


それならポックリ逝ってもいい気がして、吸い込まれるように飛び降りた。





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