キミが刀を紅くした
――こんな日に限って陽が落ちるのが早い気がする。気のせいかもしれないが、心は急いていた。
しばらく家で過ごした俺は、陽が落ちてから街へ向かった。京は灯火を並べて妖しく俺を迎える。
刀はしっかりと腰に下がっていた。紅椿を相手にするにあたって俺の腕は問題ないはずだ。後必要なのは強い心と度胸だけである。
だがそれらを準備する時間はなかった。小さな悲鳴が聞こえたのだ。蚊の鳴くようなものであったが場所が場所だけに、それが悲鳴だと言う事はすぐ分かった。
俺はすぐにその場へ向かう。
――そして。
「た、助けてくれ!」
「と、言われてもな。悪いがあんたにはこの世の為に死んでもらなけりゃなんねぇんだよ」
「な、なぜ」
男の声はそこで途切れた。こと切れてしまったのだ。ある男の手によって、ある男が握る黒刀の一太刀によって殺されたのだ。
「何故って、お前が幕府贔屓の商人の店を潰しちまったからさ」
俺は、その男を知っていた。
だから余計にその男の顔をしっかりと確認してから、刀を抜いて覚悟を決めた。俺はゆっくり息を吸い込んだ。そして、名を呼ぶ。
「大和屋宗柄」
――振り向くな。
俺の勘違いであるのならそれに越した事はない。大和屋が紅椿なんて。俺は心の中でそう願った。
だが、彼は振り向いた。
「む、ら……さき」
「大和屋」
何でそんな事をしているのだ。殺しなんて完全な悪ではないか。勧善懲悪を唱えて良いのは、この時代じゃ誠くらいじゃないのか。
お前は何者なのだ。
「あ――違う、これは」
「紅の椿を手にしている癖に、その言葉を信じろと言うのか?」
「聞いてくれ、村崎」
「気安く呼ぶな。人殺しめ」
「そう言うなら、もう呼ばない。だが話ぐらいは聞いてくれ!」
「――黙れ、聞く事はない」
俺は芥生流水をかまえ、大和屋を……犯罪者紅椿を睨み付けた。
(00:瀬川村崎 終)