キミが刀を紅くした
総司が首を振ったのと同時に半助が小さく言葉を発した。
「上松京吾朗」
あれが京吾朗か。困ったな。椿にまでご執心だなんて。あれで椿が彼を好いていたら俺はただの邪魔物でしかないじゃないか。
嫌だな。誰に恨まれようと椿に嫌われるのは少し堪えそうだ。
「京吾朗って賭博場に出入りしてる奴でしたよね、確か。噂は新撰組にも入って来てますよ。とんでもない強運の持ち主なんだとか」
「イカサマは?」
「俺たちもそう思って調査してましたが、イカサマは一切なしでした。稀にいる珍しい奴って土方さんは言ってましたけどね」
総司の話を聞きながら俺は京吾朗を眺めた。自然と視界に入る椿は楽しそうに笑っていた。あれが京吾朗の力みたいだ。落とせない女はいないんじゃなかろうか。
騙すと言うのがよろしくない。それさえなければ俺は手を出さないのに。この世の女は全員幸せにならなきゃいけないからね。
「それより半助の兄さん。何で彼の名前を知ってたんですか?」
「紅椿が来たから」
「紅椿ってあの紅椿?」
半助は小さく頷く。では彼はじきに殺されてしまうわけだな。半助は若いと言えど本物の忍だから村崎殿や宗柄の様にはいかない。嘘や騙しは通用せず殺される。
あぁ、なんだ可哀想に。
「殺されちゃうんじゃ、俺が京吾朗さんを調べる意味はないかな」
「上松は殺さない」
「え、でも紅椿は」
「上松の娘に来た」
半助の言葉に俺と総司は無意識に視線を交わしていた。総司も女騙しの噂は知っていたのだろう。まさか百戦錬磨の賭博師に娘がいたとは思わなかった。しかもその娘は紅椿に狙われる様な子だ。
何をしたのだろう。京吾朗は割りと若いから娘もまた若いのだろうが。慶喜殿も容赦ない人だな。
ふと、椿と目が合った。彼女は俺ににこりと笑いかけるとちょこちょこと俺たちの方にやって来たではないか。上松京吾朗と共に。