キミが刀を紅くした
京吾朗は俺を見て小さく会釈をした。会うのは初めてだと思っていた俺はその端整な顔つきを見てふと記憶をよみがえらせる。だが出るのは嫌な記憶ばっかりだ。
あいつに似てる。島原の支配者に顔がよくよく似ているのだ。
「丑松さん、総司さん。こちら上松京吾朗さまです。上松さまはお二人をご存知なのですよね」
「えぇ。一方的にですがね。お二人とも腕が立つと有名ですし」
そういえば半助の姿がない。さすが忍と言うべきだろうか。標的に近い人には近付かないのだな。
俺は京吾朗を眺めた。
「以後宜しくお願いします。では椿さん、また後程お迎えに上がります。美しい貴女との会瀬は美しい星の下で行いましょう」
「あら、まあ」
椿が顔を赤らめた。
俺は二人の様子を見てから去り行く上松京吾朗の背を見送った。あれは椿を狙っていると見て間違いないだろう。否、椿の金をか。
嫌だなあ。嬉しそうなのに。
「椿の姉さん、もしかしてあのお客さんに誘われたんですか? ですよね、でも星空の会瀬は危ないから止めた方が良いですよ」
「大丈夫です総司さん。私はただ上松さんの娘さんとお話をしに行くだけです。ご心配をど――」
「椿」
「……、はい」
「違うとは思うけど一応忠告しておくけど。アレに惚れるぐらいなら俺に惚れときなさい。良いね」
俺の直感が疼いた。普通なら隠そうとする娘の存在を露見させたと言う事は、つまり娘を利用したとそう言う事になる。いくら子供でも女は女。利用だなんて。
やっぱり俺が行こう。
「丑松さん、ご心配なく。上松京吾朗さんのお屋敷は賭博場の奥から三件目に御座いますよ。半助さんもお聞きになりましたね?」
ふと半助が姿を現した。今まで何処に隠れていたのかと総司が辺りを見渡している。俺は椿の言葉に、ただ安堵するしかなかった。
中村椿は惚れちゃいない。彼女は紅椿の紅一点、半助の為に京吾朗に近付いたのか、それとも近付いて来たから利用したのか。どちらにしてもすごい女。俺にまで言ったと言うことは既に島原の事件も知っていたのだろう。