キミが刀を紅くした
椿の情報を無駄にしない為にもと俺は半助と共に花簪を出た。日はまだ高いが賭博場へ足を運んで上松京吾朗の動向を探ってみる。
彼の家は確かに椿が言った通りの場所にあった。だが中に居るのは彼と娘ではない。低く鋭い男たちだ。話し声が聞こえて来る。
「……だった。今夜も約束を取り付けてあるし簡単に行けそうだ」
「娘の為とは言え、京さんも取っ替え引っ替えよくやるな。今度の花簪の女将で何人目になる?」
「五人目、かな。なに。まだたったの五人じゃないか。言う程だ」
「五人も女を騙して金品巻き上げてちゃ十分だろ。で、次の女将さんから巻き上げた金も娘に渡すってのかい? 一体幾らいるんだ」
「さあね。でも弥生が喜ぶならそれで構わないよ。倒幕だなんだってよからぬ連中とも縁を切ってくれたらもっと嬉しいんだけど」
「ふぅん。まあ今夜は頑張って。花簪の女将は割りとガードが堅いと専らの噂になってるからな」
「楽勝だよ」
ははは、と乾いた笑い声が彼の屋敷に響いた。日はやはりまだまだ明るいが、俺は懐の小刀を握り締める。ふと半助の姿を探したが彼は何処にもいなかった。
あぁ、でも今行った所で俺に何が出来ると言うのだろう。白昼にどうどうと挑みに行くなんて、誠に世話になりたい奴がする事だ。
「吉原」
「あぁ半助。何処に行ったかと」
「椿が泣くのは嫌だ」
「――うん」
「待ち合わせは花簪の前だと聞いてきた。何とかしろ、吉原」
半助はそう言って消えてしまった。椿を心配する優しい忍びなのは良いが島原の鬼神と謳われている俺に何とかしろと命令するか。
俺は少しだけ含み笑いを浮かべてから賭博場を後にした。夜に動くと言うのなら俺も夜まで眠ることにしよう。本職に支障が出てはいけないからね。あぁ、そうか。
島原で傷ついた名は、
島原で、か。上手く言った。
「さあて、寝に戻るか」
俺は島原に向けて歩き始めた。そういえば何か忘れてる気がするんだけどなあ。