キミが刀を紅くした
島原に戻った俺を待っていたのは珍しく昼間に屋敷から出て来ているお松だった。松は俺の首根っこを黙って掴んで歩き出した。
「何時間待たせる気なんだい。あんたが例の事で屋敷に来るって言うから待ってたのに。寝る間がなくなっちまったじゃないか丑松」
あぁ、そうだ。俺は最近多発している金も払わず遊女と遊ぼうとする男を何とかする為にお松の屋敷へ行く途中だったのだ。
が、九里さんの悲鳴があって女騙しがあって椿が狙われて――。
「ごめん。でも見つけてきたよ。女騙しは上松京吾朗でしょう?」
「何を言ってるんだい。京吾朗さんは確かに質の悪い客だけど女たちが勝手に貢いでるだけだよ。八重に真崎に都勢に……後は誰だったかね。とにかく良い男だから」
「え、でも」
「何股かは掛けてるから、悪いって言ったら悪いんだろうけどね。島原でそんな事は罰する事ないだろう? 女が好きに払ってるんだし、それは女が悪いのさね」
じゃあ何で椿は俺にまで京吾朗の住処を言ったのだろう。宗柄には負けるけど彼女も相当頭が良いはずだけど。俺みたいに京吾朗が犯人だと勘違いしたのだろうか。
俺はお松に引き摺られながら首代たちが住む島原最奥の屋敷へと入って行った。俺はそのまま一階の溜まり場へ放り込まれる。
「じゃあ皆丑松に報告頼むよ」
日はまだ落ちてない。なのに島原の女は起きている。そして口々に話し始めた。事件の報告だ。
今や島原は無法地帯になっているらしい。九里さんが襲われてから数件同じ様な事件が起きたのだとか。だから首代たちは寝ずに起きていたのだ。島原守護の為に。
そして、未だに狙われていないのは華宮さんのいる華岬。島原一の高嶺の花がいるからか手は出されていなかった。だが今となってはそれも時間の問題になる。
「と言うわけだ丑松。交代で華岬を張ろうと思うんだけど」
「俺が張るよ。約束すっぽかしてしまったお詫びにでもね」
俺はふらっと眠気に襲われて床に倒れ込むとそのまま目を閉じてみた。女たちが驚く声がする。
「日が落ちたら起こして」
そう言うと、笑い声と共に誰かが軽い布団を俺にかけてくれた。