キミが刀を紅くした
開け放たれた窓に人影が見えたのはすぐの事だった。首代の突入に少したじろいだのだろう。華さんの腕を後ろで縛りながら、犯人である男は姿を現した。
下にいる遊び人や遊女たちが足を止めて状況を見守った。華さんは悲鳴も上げずに窓から不安そうに地を見下げて、俺を見つけた。
俺は軽く手を挙げる。
「何の騒ぎですかね」
「あぁ、あれですよ。華宮太夫が誰かに捕らえられてしまってる」
「まあ」
椿の声がした。
そういえば、椿は京吾朗と一緒にいるんだったな。金はまだ騙し取られていないだろうか。まあ椿の事だから大丈夫だと思うけど。
「大変」
「島原の自警団は何をしてるんでしょうね。こう言う時に活躍しないで何処でするんだか……」
「すぐいらっしゃいますよ。丑松さんもきっともういらっしゃいます。人混みで見えないだけで」
「だと良いですが」
――ダメだ。やっぱり。
やっぱり椿は京吾朗が相手じゃ幸せになれない気がする。何でか分からないけどこれはいけない。邪魔をしてでも、止めないと。
だが椿の声に振り返った途端、俺を呼ぶ声が一つ宙から聞こえてきた。追い詰められた犯人が華さんを抱き抱えて開き窓から飛び降りたのだ。全く無謀な奴だな。
「丑松!」
「今行きますよ」
空中戦に自信はないが、俺は飛び降りた男を宙で叩き落とした。それからすぐに華さんを引き寄せて着地――出来ればよかったのだが。俺は華さんの下敷きになってしまった。割りと、痛い。
格好はすこぶる悪いが華さんに怪我がなかっただけ良しとする。
そうこうしているうちに妙さん率いる首代が降りて来て犯人である男を捕らえ始め、華さんを俺から退かした。俺は華さんに手を引かれて起き上がり服の砂を払う。
「大丈夫かい、丑松」
「大丈夫。華さん一人で平気?」
「え、平気だけど――」
「じゃあ悪いけど首代に指示出してね。俺はすぐ戻るけど」