キミが刀を紅くした
大和屋宗柄
かん、かんと刀をうつ音が響いた。銀色は朱に染まり、人斬りの刀は次第に柔らかくなる。鍛冶屋はその鉄を鎚でひたすらに打つのだ。俺にとって炎は絶大である。
「お前の名を聞いたって奴が居るんだ。一昨日の晩は何処にいた」
俺の前に立っている男は煙草を吹かしながら俺を睨みつけた。目つきの悪い男である。だが、京では誰もが頼る信頼の男であった。
名は土方歳三。誠を背負う男。
そして彼の周りには部下らしき仲間らしき男たちが同じく誠を背負って立っていた。殺人容疑のある俺を取り調べるためにだ。
「何処って、ここにいた」
「証人か、証拠は?」
「……吉原丑松が一昨晩此処に来ていたな。くだらない話しかしてねぇが、吉原は証人になるか?」
「そうか。なら、志藤平介が死んだ事は一切合切知らなかったとそう言うんだな。今の、今まで」
「あぁ。知らないね。その名さえ今初めて聞いたんだぜ。勘弁してくれ、仕事が進まねぇだろ」
「疑われるあんたが悪い。俺がこの世を仕切っていたらあんたはすぐしょっぴいてるぞ」
土方は俺を眺めながら言うと、同じ誠を背負う男に命じた。
「吉原丑松の証言取りに行け。食い違ったらすぐ連絡を入れろ」
「はい」
「俺はここで奴を見張ってる。一応、容疑のかかった男だからな」
低い声がはっきりと返事をするのが聞こえた。彼は優秀で良い部下を持ったものである。本当に。
誠の隊士は来た時同様に『大和屋』の敷居を跨いで、散り散りに何処かへ向かっていった。俺はそれを見送らず刀を打ち続けた。今は滴る汗を拭く気にもなれない。
残った男のため息が聞こえた。