キミが刀を紅くした
困ったな。そりゃ誰が逃がしたとか何とかなんて調べりゃすぐに分かる事だろうけと。実際吉原が負けたって事が広がってたんだ。俺が逃がした事が誰かさんにバレていても何ら不思議はないか。
だが困った。
「買い被るなよ。お前の頭で何を考えてるかなんて知るか。何が言いたいかさっさと言え」
「紅椿を教えて頂きたい」
「意味が分からねぇな」
「つまりその、西崎露子を逃がしたのなら紅椿を見ていても可笑しくはありませんよね。だから紅椿に繋がる何かを知っていれば」
「西崎露子は確かに逃がしたが、何でそれに紅椿が関わってくるんだ。俺は吉原からあの女を逃がしただけだぜ。女は今も生きてる」
「だからお願いしているんです。西崎露子は紅椿に狙われていたはずなんですよ。なら少しでも」
「なぜ狙われてたと?」
「彼女の夫が紅椿に殺されたからです。何なら――彼女が紅椿の一員ではないかと思っています」
娘が殺されて一日足らずで此処まで調べ上げる奴がいるものなのか? 邪魔くさいのは嫌いなんだよな。この感じじゃ、明らかに俺は疑われているじゃないか。
疑わしき紅椿を逃がした男。
「俺も疑われているみたいだな」
「えぇ。一応」
「どうすりゃ晴れるんだ」
「紅椿の事を教えて下さい。それか、西崎露子さんに会わせて下さい。どうかお願いします」
切に願われたって断る事は簡単だった。だが俺は渋々頷いたふりをしてやった。西崎露子は紅椿ではないのだしそれが確認出来れば上松も諦めてくれるだろう。
それが紅椿に復讐する為だとしても。これ以上やたらに調べられるよりはマシだろう。
「分かった。じゃあ西崎露子にあんたが会いたがってると伝えておいてやる。今夜で良いか?」
「は、はい。ありがとうございます。では今夜、日が落ちたら鍛冶屋に向かわせていただきます」
上松は深々と頭を下げた。俺は首を振って出されていた茶を飲み干すと、刀を置いて上松の屋敷を後にして鍛冶屋に戻った。
相変わらず煙たい我が家だったが、気付けば客が座っていた。否客と言って良いのかどうか。