キミが刀を紅くした
俺は密かに頷いて土方の刀を鞘に納めた。歪みも錆びもない。上松京五郎の刀もこんな刀だった。
賭博師なら刀を使わないから俺はてっきり武士だと思っていたくらいだ。それくらい刀の手入れは行き届いている。完璧だった。
「瀬川はまた殺さない気か」
「いや、今回は彼も覚悟を決めたみたいだよ。ただ村崎殿はこう言う仕事には慣れてないみたいで」
慣れてないわけがない。
村崎は世荒しだぞ。俺はしばらくそれを近くで見た事もある。村崎は一度決めたら引かないし、躊躇したり悩んだりする事もない。
「吉原、村崎は今どこに?」
「夜には戻るって言ってどっかに行っちゃったけど。どうして?」
「いや、ただ――」
「そういえば大和屋、お前どこで上松の事を知ったんだ。瓦版も取らない癖にどうして知ってる」
鋭い奴だ。何で俺が瓦版を取っていないのを知ってるんだ。長年の勘とでも言うのだろうか。
「刀を打ってくれって言われたんで、打っただけだ。娘を殺した紅椿に復讐するんだそうだ」
土方は何かを言いかけたが口を開けたまま静止してしまった。吉原はその様を見たままくすりと笑う。俺は気にせず土方の刀を軽く打ちはじめた。やりやすい。
かんかん、と音だけが響く。そうしてる間に時間は過ぎていってしまい気付けば日は落ちていた。
打ち終わった刀を整えて一息つくと、寝息が聞こえて来た。どうやら土方の背を借りて吉原が眠っているらしい。昨日は忙しかったらしいから仕方ないだろう。
「上がったぜ」
「あぁ」
「そうやって見てると吉原もただの人だな。鬼神と呼ばれてるとは誰も思わないだろーよ。なあ?」
俺は煙を吹かして静かに眠る吉原を見る。俺が誘わなければ吉原は紅椿に入る事なく花街を護り続けていただろう。だが吉原は俺について来て睡魔と戦っている。
大声や物音を立てればすぐに起き上がるだろうが、今はすっかり安らかに落ち着いている。
「休みだろうが何だろうが、動いてやるなよ土方。吉原が起きるまでそこに居て良いから」
深く息をした土方は静かに俯いた。文句を言わないと言うことはたぶん拒否はしていないだろう。