キミが刀を紅くした
「それに比べて俺は、村崎殿の友人としてはあまり良いとは言えないな。寝たふりしちゃった」
「何で寝たふりなんか」
「俺は何もアドバイス出来ないからだよ。村崎殿にここに来る様に言ったのも、俺だからね。あぁ」
吉原はまた目を閉じた。
「もう一人、来てるよ」
誰がと聞く前に鍛冶屋の戸が開いた。現れたのは上松京吾朗。俺が打った刀を引っ提げて訪ねてきたらしい。俺は驚いた――が彼を呼んだのは他でもない俺だった。
さてどうするかと頭を回す。
ここで彼を殺してしまえば村崎は悩まずに済むだろう。多分紅椿の仕事を終えた後も彼は抜け殻みたいになってしまうだろうし。
土方はいるが紅椿だと知っていれば俺が上松を殺しても何とかしてくれるに違いない。吉原も同じだ。だが、やはりだめか。他でもない瀬川村崎が許さないだろう。
「入ってくれ」
その言葉に従った上松は村崎よりも静かに戸を閉めた。しかし土方と吉原には頭を下げない。これは気付いてないのかも知れない。
真っ直ぐに俺の所まで来た彼はゆっくりと息をしていた。戦う準備はもう万端と言った所か。
「いつ行くんです?」
「西崎露子の所へは行かない」
「なぜです、案内してくれると」
「直接、紅椿の一人に会わせてやる。だからあの女の所には行かないんだよ。あの女は関係ねぇ」
「直接ですか。しかし大和屋殿はなぜその一人を知ってるんです」
「あくまで疑う気だな。そこにいる――土方から聞いたんだよ」
土方はいきなり出てきた自分の名に驚いて俺を睨み付けていた。巻き込むなと言いたいのだろうが仕方ない。そこにいたのだから。
だが上松は彼を見て安堵した様子だった。さすがは信頼の誠か。
「土方にお前の事を話したら情報をくれてな。紅椿の力は新撰組でも計り知れていない。まあお前は当て馬みたいな存在になるが」
「構いません」
「だろうな。ご希望通り、紅椿の一人を殺せるんだから。さてじゃあさっそくだがそいつの情報だ」
俺は口角に笑みを浮かべた。