キミが刀を紅くした
「丑松とは話をつけてあるんだろうな。隊士をやっちまったぞ」
土方は鍛冶屋の戸を閉めながら俺に噛み付いた。今にも刀を抜いて斬りかかってきそうな勢いだ。
俺は打っていた刀を持ち上げてそれを眺めた。よく打てている。半分に折れていたとは思えないくらい、しっかりとした刀身だ。
「大丈夫。一昨日の昼に頼んでおいたから、何の問題もねぇよ」
「二日で死体が見つかるのは、お前がへまして見られたからだぞ。何が問題ねぇ、だ。大有りだろ」
「へまって言うなよ」
「へまだろ。その、誰だった」
「……瀬川。瀬川村崎」
「そう。そいつに見られたんだから完全にへまだ。正体がばれたら、鍛治屋の商売も何もねぇぞ」
さっきからずっとこれである。全ての事情を知っている彼は、いや、全ての事情を共有している彼は全ての事を心配している。
村崎は俺を心配しすぎだと昔から言っていたが、俺にしてみれば土方の方が心配しすぎだ。
「俺がお前をしょっ引くはめになるんだから、勘弁してくれ」
「……悪い。本当に、今ちょっと落ち込んでんだ。まさか村崎に見られるなんて思ってなかったからな。あぁ、嫌われちまった」
「嫌われた、じゃねぇだろうが。自分だけの危機じゃねぇんだ。紅椿の存在自体をまず考えやがれ」
俺は手にしていた刀を鞘に収めて、残りの五本と一緒に纏めた。村崎が期待したから他の仕事をあと回しにして二日で仕上げた刀。
だが、誰も取りに来ない。
まだ二日しか経っていないからかも知れない。だがもしもこのまま村崎が来なかったら――。