キミが刀を紅くした

 そういえばこの前、大和屋が勝手に頼んだ水饅頭を美味いと言ったら、丑松殿は島原で食う水饅頭はもっと美味いよなんて言っていたっけ。機会があれば食べさせてあげるとも言ってくれていた。

 これが、それか。



「どうぞ」


「頂いても良いんですか?」


「勿論。茶も少し前に新調したものですから、ぜひご一緒に」


「やった……おっと、すいませんね。土方さんには内緒にしてて下さいよ。島原の姉さん方から貰う水饅頭は絶品で名高いんでね」



 そうなのか。俺は一口頬張ってみる。それけで芳醇な甘味が口一杯に広がるのに、決して甘過ぎない。控え目な甘さ。しかし味はやはりしっかりとして、美味い。

 俺に次いでそれを口に入れた沖田さんは両の手で自分の頬を押さえて、しばらく目を閉じた。言葉以上に美味さを感じている様だ。



「美味いと言うのが無粋なくらい美味いですね。こりゃ島原に通う男が増えてもおかしくねぇや。今度もらいに行ってみようっと」



 水饅頭を目当てにして島原にいくのは彼ぐらいではなかろうか。



「それはそうと――あぁこの茶も中々美味い――瀬川の兄さん、その後は大丈夫でしたか?」


「その後、と言うと」


「紅椿、やったんでしょう?」



 俺は無邪気な問いに微笑みで返事を返した。茶菓子を食べながらする話ではないような気がする。彼の中で紅椿は日常に溶け込んでしまっているのだろうか。

 だから気にもしない?



「俺はね、仕事柄色んな奴に手を出さなきゃなりません。ご存知の通り切り込み隊長をしてるんで」


「慣れますか?」


「いやいや、慣れやしませんよ。人を斬る時の感覚は相手によって変わっちまいますしそりゃあ嫌なもんだ。なるだけやりたくない」


「ならどうして、沖田さんは紅椿に入っているんです。やっぱり土方さんが入ってるからですか?」


「俺は土方さんより先に入ってましたよ。大和屋の旦那のやり方が好きなんでね。土方さんが入ったのは最後……今は瀬川の兄さんが最後なんでその前になりますか」


「何と。先だったんですか」


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