キミが刀を紅くした
「今も昔も島原は誠の手が届かない無法地帯でしょう? 土方さんは前々からそれが気に召さなかったみたいでね。吉原の旦那が入ってると聞いて島原の治安を旦那と共に守ろうとしてるんですよ」
あの人は正真正銘、正義の人だから。沖田さんはそう付け足して柔く笑った。なんと壮大な。だがそれもそうかも知れない。
土方さんの様な強く優しいしっかりとした人が意味もなく紅椿には入らないだろう。それより。
「沖田さんは大和屋のやり方が好きなんですか? どうして」
「どうして?」
「大和屋は昔から自分に有利な事しかしない質ですよ。だからあいつのやり方を嫌う人の方が多い」
「瀬川の兄さんもお嫌いで?」
「俺は、好きじゃない」
「俺は大和屋の旦那のそう言う利己的な正直さが好きなをです。正直って言うと変ですがね。それに旦那はかなりの腕をお持ちだし」
「確かに力はある、けど」
「旦那の口説き文句は、強くなりたきゃついてこい、ですよ?」
沖田さんは楽しそうに笑った。つまり彼は強くなりたいのだ。今でも新撰組の要と言われているのに、もっともっともっともっと。
「瀬川の兄さん、ちょいと出掛けません? 家にいるばっかりだと俺でも気が滅入っちまいますよ」
「どこに行くんです?」
「暇潰しと言や椿の姉さんの所ですかね。どうです。あそこは、情報収集にも役立ちますからね」
少しばかり悩んだが俺は沖田さんに着いて行く事にした。家にいてもどうしようもない事は確かだし、別段やる事もないのだから。
じゃあ決まり、と茶を飲み干した彼はいつの間にか刀を腰から提げて立っていた。俺は残りの水饅頭を包んで保管すると、湯飲みやらを手早く片して準備を終える。
「さあさ、行きましょう」
家を出た途端沖田さんが立ち止まった。行かないのかと催促する前に若い声が聞こえてくる。姿は沖田さんのそれとそっくりだが誠の背負い具合が違うみたいだ。
「沖田隊長、瀬川の事情聴取は」
言いかけて止めたのは、隊士の目に俺の姿が写ったからだろう。俺は気にせず戸締まりして沖田さんの少し後ろに立った。