キミが刀を紅くした
「こんな所にいたのか総司」
「……土方さんこそ」
「見回りの時間はとっくに終わってんだろ。何してやがった」
「いやなに、一応瀬川の兄さんに事情を聴取してたんですよ」
「唇に食いかけが残ってるぞ」
「え、うそ――」
沖田さんが慌てて口回りを袖で拭っていたがそこには何もない。俺と中村殿は目を合わせて、彼がはめられていることに気付いた。
しばらくしてして気付いた沖田さんは苦虫を噛み潰した様な顔をする。だが時はもう遅い。
「瀬川の聴取内容を事細かに報告書に記せ。それも、今日中にな」
「分かりましたよ。まったく、少し寄り道をすればこれだ。土方さん、土方さんもちょいと寄り道の楽しさを覚えりゃいいんですよ」
「早く行け」
「はいはい。じゃあ瀬川の兄さんに椿の姉さん、お達者で」
大袈裟に別れを告げた後、沖田さんは頓所の方に歩き始めた。俺はその背を眺めていた。彼はもしかして俺を外に出す為に寄り道をしたんじゃないだろうか。
だが確かめるには遅かった。
中村殿が招き入れてくれたので俺はそれに従って中に進んだ。土方さんの横に座るのは少し気後れしたので少しだけ空けてみた。
「なぜ空ける」
「すいません。何だか自分が物凄く悪人な気がしてしまって」
「そうかい。あぁ中村」
「はい」
「あれを瀬川にやってくれ」
「分かりました」
多分紅椿のせいだと思う。俺は割りと図太い男だったはずだし。世荒しと呼ばれても動じなかったのだから。なのに、今は――。
俺は苦笑いを浮かべながら中村殿が運んできた茶を受け取った。
「後悔しても遅い。後戻りは出来ないと最初に言っただろう」
「えぇ、仰ってました。ですが気に病むなとは言ってませんよ」
「確かにな」
暖かい茶をゆっくりと啜ってみると。ふわりと茶の香りが口に広がる。あぁ、美味い。これなら俺が沖田さんに出した茶は然程美味くない事になってしまわないだろうか。何だか悪いことをした。