キミが刀を紅くした
「土方、村崎には会ったか?」
「あぁ。今朝事情を聞きに奴の屋敷まで行った。小さい倉のある小さな屋敷だったな、確か」
「どうだった、様子は」
「瀬川の平生を知らないのにどうやって答えろって言うんだ」
土方はため息をついた。その時丁度、こんこんと扉をノックする音が聞こえる。静かに開いた扉からは、隊士が数人入ってきた。
「どうだ、首尾は」
「吉原丑松は確かに一昨日の晩、この鍛冶屋を訪れているそうで」
「裏は取れたって訳か」
「はい。京旅館、花簪の中村椿が鍛冶屋方面に向かう吉原丑松を見たとも証言しています」
「なら大和屋は外れだな」
土方は立ち上がり煙草を靴底で消した。そうして隊士を下がらせながら、俺には小さく頷いた。
「邪魔したな」
「いや――ご苦労さま」
俺は一般市民を装って、今度は誠を見送る。そうしてまた鍛冶屋に静寂が訪れるのを待った。
炎が燃える音以外、音が消えた頃。俺は自分の刀を鞘から抜いていた。静かに光る、漆黒の刃。
紅椿は俺とある人が作り上げた暗殺組織だ。つまり、俺は紅椿の統括者。紅椿は全部で六人。いやある人を入れれば七人か。
目的は徳川の幕府を守ること。だからそれに仇を成す者を消して行くのだ。調べたり指示があって俺たちは殺人を犯す。言うなればただの駒だ、幕府の捨て駒。
いつからか。その立場に慣れてしまったのは――もしかすると、最初から躊躇していなかったかも知れない。殺しの全てを。
村崎の言う通り人殺しだ。