キミが刀を紅くした

 紅椿を終えた次の日。俺は色んな人に出会い支えられてるのだと感じた。だが幾ら周りを固めても中が溶けていては意味がない。

 俺は全てを終えて家に帰り早々に眠りについた。決して消えることのない事実は俺の脳裏を確実に侵食していく。人殺しの事実。

 改めて考えると剣の腕を上げたいと戦場に出ていた時も俺はやはり人殺しだったのかも知れない。初めに大和屋を巻き込んで、彼を人殺しに仕立てあげたのも俺だ。


 俺は今まで、どうして自分を正当化出来ていたのだろう。過程と理由は何であれ結果は人を殺し続けてきた男だと言うのに。



「……瀬川村雨」



 徳川の為に紅椿を追い詰め正義と情けの為に徳川を追われた男。俺は彼の事を情けない情けないと思っていたが、俺の方が人間として男としてよほど情けない。

 強さを求めて紅椿を追い詰め情けと世間の平穏の為に紅椿に取り込まれたのだから。なのに俺は今さら人を殺してしまったと可笑しな後悔を繰り返し呟くばかり。

 情けないったらない。



 強くあれば誰も困らない。
 強くあれば皆を守れる。
 俺が、強くあれば――。



「大和屋は、もう我慢しない」



 大和屋の為に強くならなければと思ったことは毛ほどしかないけど、俺が強くなることで彼が自由な思考に辿り着けるならそれに越したことはない。あの思考には身勝手だけど何度も助けられた。

 あの自由さが好きなのだ。



「――」



 俺が弱くて困る人はいるが俺が強くて困る人はきっといない。俺は元々悪人だから、仕方ない。

 やっぱり俺は悪人だから。




 そう自分に言い聞かせて床についたが、俺の思考はいつまでも反発し続けていた。その証拠に。

 ほら、今夜も嫌な夢を見た。


(01:残忍な夢 終)

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