キミが刀を紅くした
闇夜の電光
自分は運が悪い。
俺は生まれた時から自分の運に頼ったことはない。何故なら運河悪いからだ。忍の修行をしていた時もくじ運が悪いせいで落ちこぼれだと言われてきたのだ。
「断る」
「どうしてだ」
「俺である必要がない」
「お前でなきゃいけないって何度言えば分かるんだよ。そもそもこんなもん運が仕出かす事なんだから別に良いじゃねえか」
「だから嫌なんだ」
「何だ、ちゃんと理由があるじゃねぇか。だがやってもらうぜ」
「話にならない」
「とにかくやれ」
主が俺を呼んだのでいつもの隠れ屋敷に行った所、大和屋が主と共に出てきた。用事は済んだらしいが主は大和屋について行け、と言うなり屋敷に戻ってしまう。
主がついて行けと言うのだから俺にその他の選択肢はない。それで仕方なく大和屋の鍛冶屋に足を踏み入れたら――こんな事に。
「大体よ、お前は慶喜殿から俺に協力する様に言われたから紅椿に入ってるんだろ。ならちったあ協力してくれてもいいじゃねぇか」
「紅椿の件では大いに協力している。お前より働いているはずだ」
「なら今回も」
「今回の事は紅椿とは関係ない」
「だがお前にしか頼めねえ。これは慶喜殿に頼まれた事なんだぜ」
「なら責任はお前にある」
「だから、お前には関係ねぇってか。あんまりじゃねぇか。結局損するのはお前んとこの主だぜ」
「主を出せば何でもすると思うなよ、なぜ俺が賭け事をしなければいけない。賭ける物もないのに」
「賭けるもんならある」
「――何だ」
「中村椿」
「な、」
大和屋はにぃっと嫌な笑みを浮かべたまま煙管を吹かした。ゆらゆらと煙だけが舞って行くのは見慣れたはずなのに心地悪い。
彼は一息吐くと静かに笑った。
「あちらさんは将軍家の母君の形見を出すんだから、こっちもそれぐらいのもんを賭けねぇとな。大丈夫、中村ならやってくれる」
俺は呆れて言葉を無くした。