キミが刀を紅くした
二人の話を聞いている限りでは瀬川も粂助の事を知っているらしかった。割りと深い仲みたいだ。
「じゃあ、村崎も来いよ。今夜賭博場で粂助と丁半の勝負をする事になってるんだ。吉原はあぁだから多分来れないだろうし、な」
「だが俺は賭けをたしなんだ事すらない。何を賭けるか知らないが負けてしまうかも知れないぞ」
大和屋は苦笑いしている。
「そうだ、何を賭けるんだ?」
「いや、ちょっとな、まあ……」
「主の母君の形見と椿」
「な、形見?」
「いや、取り返すんだよ。慶喜殿に頼まれたから仕方なく賭けに参加するんであって、だから」
「それに椿って、まさか」
「中村椿」
俺が呟くと大和屋は舌打ちをして俺に手拭いを投げつけた。だが再び主の名前を出して何とか言い訳を始めていた。懲りない奴だ。
だが紅椿の時と違うのは瀬川が拒否をしていない事だ。しかめっ面はしているが拒否じゃない。
「仕方ない。じゃあ俺も行く」
「本当か?」
「中村殿の代わりに賭けの商品になる。でなければ彼女に申し訳ないだろう。粂助は前から俺を傘下にしたがっていたし、丁度良い」
「待て、何だそりゃ。聞いてねぇぜ。粂助の傘下に入れって言われてたのかよ。知らねぇぞ!」
「言ってないから知らないのも無理はない。半助殿も行くのだったな。今夜はよろしく頼む」
瀬川の言葉に俺は頷く。椿が賭けられるより気が軽いからだ。だが大和屋はそうではないらしい。あたふたしながら去って行く瀬川を見ながら何か言おうと何度も口を開いていた。だがそれも虚しく瀬川は満足そうに帰っていく。
「勝てなかったらどうすりゃいいんだ。吉原もいねぇってのに」
椿の時も心配しろよ。