キミが刀を紅くした
親がサイコロを湯飲みサイズのツボに入れて隠してしまう。はてさて丁か、半か。粂助の手下は早い段階で丁と判断していた。
考えても無駄なのだろう。確率はいつも二分の一。そう、誰かが言っていた気もしなくはない。
「服部」
「半」
今回は丁半の三回勝負。こちらも相手も二人ずつ参加しているのだが、どちらが答えても構わないと言うルールが設けられている。勝ちが多かった方の勝ち。勿論同じ答えにしても構わないのだが。
親がツボを開いた。
「丁、粂助の旦那方の勝ち」
ち、と舌打ちをする大和屋。何だよだったら最初から自分一人でやればよかったんじゃないか。
「俺は運が悪いと言ったはずだ」
「運が悪いなんて聞いてねぇ」
「言った。だから始めに断った」
「知るかよ。大体何を根拠に運が悪いなんて言いやがるんだ」
忍の環境など一鍛冶屋に分かるものではない。俺は口を閉ざす。だがガキ扱いされてしまいそうで嫌だったので、仕方なく喋った。
「忍の落ちこぼれだと言われた。毎日修行の時間を決めるくじ引きで一番長い修行時間を引いていたから。仲間にも、迷惑をかけた」
騒がしい賭博場で俺の声を拾ったのは大和屋と粂助だけだった。粂助は密かに俺の口を読んでいるらしい。視線を強く感じる。
「だから負けても文句は」
「――お前は慶喜殿に遣える事になったのも運だって言うのか?」
大和屋は呟く様に言った。
「それは」
俺がいつも遅くまで修行をしていたから努力を買われたのだ。だからそれは俺の実力であって――いや、だが遅くまで修行する事になったのは俺の運が悪いせいで。
あれ。
「数多の忍からお前は選ばれたんだぜ。運も実力のうちって言うんなら実力も運のうちだろーよ。慶喜殿に選ばれたお前は運が良い」
親が再びツボにサイコロを入れて丁か半かと問うて来た。
「半だ、半」
大和屋は悩む素振りも見せずにそう答えると、俺を見て笑んだ。