キミが刀を紅くした

 運が悪いと嘆く暇があるのなら自らでそれを切り開けと言うものである。大和屋はきっとそれが言いたかったに違いない。



「運は良いと思ってる奴につくんよ。だから吉原はあんなに楽観的に生きてられるんろうがな」



 サイコロの結果は……半。

 これで結果は一対一。相手方のラストはやはり粂助が出るらしいが、こちらの大将はやる気がないみたいだ。いや、俺の運を証明してみせろと譲ってくれたのか。




「次が最後、当てた方が勝ちになる。粂助の旦那に忍の旦那、双方準備良いかい。入れるよ」



 サイコロが心地良い音を立ててツボに入り込んだ。はてさて丁か半か、どちらを選んでも構わないはずだ。何せ俺は運が良い。

 大和屋にそれを学んだ。



「丁」


「じゃあ俺ぁ、半だ」



 粂助は俺が答えるのを待ってから逆の答えを口にした。さあ後は結果を待つばかりだ。俺は運が良い、大丈夫。信じていれば運は寄るのだろう。なら、きっと――。

 親がツボを開けた。



「――は、半、この勝負、一対二で粂助の旦那の勝ちだ」




 ……。



「おい服部」


「も、文句は言わない約束だ」


「どうするんだ、村崎があの野郎の手下になっちまうじゃねぇか」


「瀬川より形見の心配をしろよ」



 あああ、と大和屋は頭をかきむしった挙げ句に抱え込んだ。粂助はそれを見てはっはっと笑い、大和屋の肩を何度か叩いてやる。

 大和屋は彼を睨み付けた。



「賭け事で俺に勝ちたいのなら、島原の若鬼ぐれぇ連れて来なきゃ無理だぜ。瀬川はもらい受ける」


「――村崎の代わりに俺を傘下に入れるってのはどうだ。腕は落ちるが頭はキレるぜ。なあ粂助」


「いけねぇな。俺は腕が立つから瀬川が欲しいんじゃねぇ。お前なら分かるだろ、こいつの魅力が」



 瀬川は何も言わないが、粂助は彼の頭を撫でた。そうして主の母君の脇差しをぽいっと大和屋に向かって投げると再び笑う。



「将軍に返してやんな。俺は幕府とドンパチやる気は更々ねぇんだよ。瀬川が来ただけで満足だ」


< 138 / 331 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop